逃げられるものならお好きにどうぞ。

コイバナと予想外の展開



「ね~え、いいでしょ椿!」



“Bar curación”にて。

私の隣に座っているのは、つい二か月ほど前に知り合った美代さんだ。今日も変わらず美しく、得も言われぬ存在感を放っている。


そんな美代さんが一心に声を掛ける先には、カウンター内でグラスを拭いている黒瀬くんがいる。



「ちょっとくらいいいでしょ、付き合ってくれたって」

「無理かな」

「何よ、たかが買い物じゃない!」



話を聞いている限り、どうやら美代さんは、黒瀬くんと一緒にショッピングに行くことをご所望のようだ。

だけど黒瀬くんはさっきから「無理」「行かない」の一点張りで、首を縦に振る気配は微動も見られない。



「……何でよ」



美代さんが不機嫌であることを顕わにした表情で、あからさまにむくれている。



「俺には百合子さんがいるから」



黒瀬くんがサラリと答える。



「……今までは彼女がいたって、買い物には付き合ってくれてたじゃない」

「うん、今まではね。でもこれからは無理」



黒瀬くんに向けられていた美代さんの視線が、私に突き刺さってくる。


――ものすごく、見られている。というか、睨まれているのをひしひしと感じる。

< 174 / 494 >

この作品をシェア

pagetop