逃げられるものならお好きにどうぞ。


「……ちょっと美代さん。いい加減、離れてくれる?」



黒瀬くんがその手を離そうと何度も試みているようだけど、美代さんは黒瀬くんにしがみついたままで、その腕を逃がす気はないようだ。

だけどその視線は、チラチラと皇さんに向けられていて。


――皇さんにやきもちを妬いてほしいのか、若しくは自ら話しかけられず、皇さんからのコンタクトを待っているのか。多分どちらかなのだろうとは思うけど――美代さん、不器用にも程がある。


私の隣を歩く皇さんを見上げれば、その視線は美代さんと黒瀬くんの二人に向いている。

けれどそのまなざしは穏やかで、嫉妬している雰囲気は今のところ見られない。



「ったく、店の中で騒ぐんじゃねーぞ」



窘めるようなその声音は、正直好きな人に向けるもの、という感じではない。

お父さんやお兄ちゃんのような――そんな響きが感じられる。

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