逃げられるものならお好きにどうぞ。
「そっか、嬉しいよ。でも……前にも言ったけど、もう百合子さん以外の女の人の家で世話になることなんてないから。百合子さんを不安にさせるようなことは絶対にしないから……それは信じてほしい」
「……うん。信じるよ」
「……ありがとう」
私を安心させるように優しい笑みを浮かべた黒瀬くんは、腕時計に視線を落として時刻を確認する。
「ねぇ。一旦家に帰ってから、また後で百合子さんの家に行ってもいい?」
「いいけど……そのまま寄って行かないの?」
「うん。ちょっと忘れ物」
そう言った黒瀬くんは、私を家まで送り届けてくれると、家には上がらず自宅に戻ってしまった。
……忘れ物って何だろう? そう思いながらも家で夕食の準備をしていれば、インターホンの音が鳴り、来客を知らせてくれる。
「黒瀬くん。どうぞ上がっ、て……」
玄関扉を開けて真っ先に目に飛び込んできたのは、真っ赤な薔薇の花束だった。