逃げられるものならお好きにどうぞ。
「ほ、ほんとに嬉しくて……ごめんね。私、何も用意できてなくて……」
「そんなのいいよ。俺がしたくて勝手にしたことだし。百合子さんに喜んでもらえたなら、それで十分」
「……黒瀬くん、イケメン過ぎてムカつく」
「あはは、それ誉め言葉?」
「でも……そんなところも全部、だいすき」
「……うん。俺も百合子さんの全部が、大好き」
黒瀬くんは口許が緩むのを隠すように、唇を一度ぎゅっと結んで、だけど直ぐにそれを緩めて、はにかむように笑う。
私は黒瀬くんのこの表情が好きだ。幸せを煮詰めたような、甘酸っぱくて柔らかな表情。
それはいつも私の胸をぎゅっと締め付けて、堪らない気持ちにさせる。
――黒瀬くんの笑う顔を、これからも隣で、たくさん見ることができたらいいな。
そんなささやかな願いを込めて、抱きつく腕にそっと力を込めた。