逃げられるものならお好きにどうぞ。
「美代さん、こんばんは」
「あ、百合子ちゃんってばやっときたわね。椿に今日来るって聞いてたから、待ってたのよ」
「私に何か用事ですか?」
「そうなのよ! ねぇ、百合子ちゃんは……バレンタインはどうするの?」
「どうするっていうのは……?」
「だから、椿にチョコ、あげるんでしょう? もう用意した?」
「いえ、まだです。どんなものにするか、まだ迷っていて」
――黒瀬くんにどんなものがいいか、直接聞いてみようかな。
「椿には手作りより、既製品がいいと思うけど」
「……え、そうなんですか?」
「えぇ。手作りは好きじゃないって前に言ってたわよ」
本当は手作りにしようと思ってたんだけど……美代さんからのアドバイスに、心が揺らぐ。
だったら高級ブランドのチョコレートとかの方がいいのかな。それに何か小物も合わせてプレゼントするとか……うん、そうしようかな。
明日にでも仕事帰りにチョコレートを買いに行こうと考えていれば、他のテーブル席にお酒を届けに行っていた黒瀬くんが、カウンターに戻ってきた。