逃げられるものならお好きにどうぞ。
「あ、香月さんいた! あの、お昼休憩中にすみません! ……少しだけいいですか?」
「うん、どうしたの?」
「その、係長から用意しておいてと頼まれた資料なんですが、どこのフォルダに入っているのか忘れてしまって……」
「あー、午後の会議で使うやつだよね? 確かにあれ、分かりにくいもんね」
「す、すみません! 何度も教えてもらっているのに、物覚えが悪くて……!」
「大丈夫だよ、今回できちんと覚えればいいんだから。とりあえずこれ食べ終わったら、会議には準備が間に合うように早めに戻るから。そうしたら教えるね」
「っ、はい! ありがとうございます……!」
「いえいえ。佐々木ちゃんもちゃんとお昼食べてね」
「はい!」
ぺこぺこと何度も頭を下げた佐々木ちゃんは、小走りで戻っていった。
彼女は仕事にも前向きでいつも一生懸命であることが伝わってくるんだけど、業務内容を中々覚えられないらしく、毎日のように係長に呼び出されては軽いお小言を頂いているようだった。
その度にしょんぼり肩を落としてデスクに戻ってくる。
私も自分の業務に余裕がある時なんかは、こっそり彼女の手伝いをすることもあるんだけど、最近は月末が近いこともあって片付けなくてはならない書類も多く、ここ最近は私も残業続きの毎日を送っていた。
黒瀬くんにはその旨を伝えて迎えも断っているから問題はないけど、疲れてバーの方にも全く顔を出せていないから、バレンタインデー以来、黒瀬くんとは顔を合わせてはいない。