逃げられるものならお好きにどうぞ。


***


「それじゃあ香月さん、今日は本当に、本っっ当に、ありがとうございました……! このご恩は一生忘れません! また日を改めてお礼をさせていただきますので…「あ~もう、そんなに何度も言わなくて大丈夫だから! とりあえず係長にメールで資料も確認してもらえたわけだし、明日は休みなんだから、ゆっくり身体を休めてね」

「っ、はい……! お疲れさまでした!」



それは綺麗な直角九十度のお辞儀を披露してくれた佐々木ちゃんは、その後も何度かペコペコ頭を下げてから、やっと帰路についた。

その背を見送り、私も帰ろうと職場に背を向けて歩みを進める。


黒瀬くんには行けそうならバーの方に顔を出すね、と伝えてあるけど、確か黒瀬くん、今日は二十時くらいで上がりだって言ってた気がするから……さすがにもう帰ってるかな。


私も今日は疲れたし真っ直ぐ家に帰ることに決めて、ぼんやりとした街灯と月明かりに照らされた夜道を、いつもより気持ち足早に進む。



アパートに着いたのは、もう直ぐで二十三時を回りそうな時間だった。

最近は残業続きだったけど、明日は丸一日休みだし、久しぶりに睡眠を貪ろう。


重たい脚を引きずって玄関扉を目指していれば――玄関前に、誰かが座りこんでいることに気づいた。

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