逃げられるものならお好きにどうぞ。
「今日は、仕事で疲れてる百合子さんを甘やかしにきたんだ」
「……私を甘やかしに?」
「うん、そう。……っていうのもあるけど、本当はそれも建前かな。ただ俺が、百合子さんに会いたかっただけ」
身体を離した黒瀬くんは、冷えた指先で、私の目下をそっと撫でる。
「クマができてる。眠れてないの?」
「……仕事、忙しかったから」
「そっか。でも明日は休みなんだよね?」
「うん」
「それじゃあ今日はいっぱい寝て、明日は百合子さんの好きなカフェのケーキ、一緒に食べに行こう。外に行くのが面倒だったら、俺が買ってくるから家で食べよ」
黒瀬くんは私の頬をゆるりと撫でながら、甘い蜜を溶かしたようなまろやかな目で、私を見つめている。