逃げられるものならお好きにどうぞ。


「今日は、仕事で疲れてる百合子さんを甘やかしにきたんだ」

「……私を甘やかしに?」

「うん、そう。……っていうのもあるけど、本当はそれも建前かな。ただ俺が、百合子さんに会いたかっただけ」



身体を離した黒瀬くんは、冷えた指先で、私の目下をそっと撫でる。



「クマができてる。眠れてないの?」

「……仕事、忙しかったから」

「そっか。でも明日は休みなんだよね?」

「うん」

「それじゃあ今日はいっぱい寝て、明日は百合子さんの好きなカフェのケーキ、一緒に食べに行こう。外に行くのが面倒だったら、俺が買ってくるから家で食べよ」



黒瀬くんは私の頬をゆるりと撫でながら、甘い蜜を溶かしたようなまろやかな目で、私を見つめている。

< 230 / 512 >

この作品をシェア

pagetop