逃げられるものならお好きにどうぞ。


「美代さん。そのボストンバッグ、持ちましょうか?」

「大丈夫よ。百合子ちゃんは女の子なんだから、重いものは男に持たせておけばいいのよ」

「でも、キャリーケースもあって大変じゃないですか?」

「……それじゃあ、これだけお願いね」



こちらに歩いてきた美代さんに声を掛ければ、美代さんは肩に掛けていた軽いショルダーバッグを手渡してくる。



「……皇さんと、何か進展があるといいですね」

「なっ……私を揶揄おうだなんて、百合子ちゃんってばいい度胸してるじゃない」



バッグを受け取る際、考えていたことを小声で伝えてみれば、顔を赤く染めた美代さんに睨まれてしまった。

だけど……正直ちっとも怖くない。むしろ、照れている表情が可愛いと思ってしまう。


思わず笑みを漏らしてしまえば、ムッとした顔で眉を寄せた美代さんに「生意気」と片頬を摘ままれてしまった。

でも軽く引っ張られているだけだから、全然痛くはない。ただの照れ隠しだってすぐに分かった。


――やっぱり美代さんは、ちょっぴり素直じゃないところもあるけど、すごく優しくて可愛らしい人だ。

< 261 / 512 >

この作品をシェア

pagetop