逃げられるものならお好きにどうぞ。
「……百合子さんは、隙が多すぎると思う」
「え、隙?」
「そうだよ。……俺以外の男に、簡単に触らせないで」
皇さんが触れていた頭部に手を伸ばしてきた黒瀬くんは、その手を下ろして私の左頬をむにむにと摘まんでくる。
皇さんが言っていたように、やきもちを妬いてくれたのだろう。
ムッとしている黒瀬くんの顔を見ていたら――友人にしか見せない顔があるのなら、黒瀬くんのこんな表情を見れるのもまた、彼女である私だけの特権なのかもしれないなぁって思えて。
「っ、ふふ」
――ついさっきまで感じていた寂しい気持ちはどんどん小さくなって、綺麗さっぱり消えてしまった。
「百合子さん、ちゃんと分かってる?」
「うん、ちゃんと分かってるよ」
「本当に?」
「うん、本当に」
「……そんな可愛い顔してもダメ。俺、ちょっと怒ってるんだからね」
「怒ってるの?」
「怒ってるって言うか……勝手に妬いてるだけ」
拗ねた表情を崩さぬまま胡乱気な目を向けてくる黒瀬くんの手をそっと握って、引っ張る。
皇さん達がこちらを見ていないことを確認してから、背伸びをして――黒瀬くんの頬に、軽く触れるだけのキスをした。