逃げられるものならお好きにどうぞ。
「ま、好いてる女の前では格好つけたいってのが男の性だからな。そんだけ嬢ちゃんに惚れ込んでるってことだろーよ」
普段あまり目にすることのない黒瀬くんの姿が垣間見れて、嬉しい気持ちが胸に広がる中――ほんの僅かに感じていた私の寂しい気持ちを汲んでくれたかのように、皇さんは優しい言葉を掛けてくれる。
「何て言うか、皇さんって……すごく大人ですよね」
「ん? そりゃあ、嬢ちゃんよりも数年は年食ってるからな」
フッと息を漏らすように笑って目を眇めた皇さんに、軽く頭を撫でられる。
けれどその手は、直ぐに離れていった。
「二人でコソコソ、何話してるの?」
私の身体を引き寄せたのは、黒瀬くんだった。
見上げてみれば、それはもう不機嫌そうな顔を隠しもせずに、ジトリとした物言いたげな目で皇さんを見つめている。
「何だ椿、もしかして妬いてんのか」
「そうだけど、悪い?」
「ハハ、即答か。いや、悪くはねーよ。……嬢ちゃんみたいなイイ女を捕まえられて、椿は幸せもんだなって話をしてたんだよ」
ニヤリと笑った皇さんに「な、嬢ちゃん?」と振られるけど、そんな話をした記憶は全くありません。
ブンブンと首を横に振って返せば、皇さんはクツクツと可笑しそうに笑いながら、数メートル離れた所にいる美代さんたちの方に歩いて行ってしまった。