逃げられるものならお好きにどうぞ。
「お、お待たせしました」
「うん、待ってました」
一足先に露天風呂に浸かっていた黒瀬くん。濡れた前髪は掻き上げられていて、その顔はほんのりと上気している。
「ほら、百合子さんも入って」
「……うん。お邪魔します」
掛け湯を済ませてから、つま先からそっと湯に足を踏み入れる。
肩まで浸かってから、盗み見るように左隣にそっと視線を向けてみる。……うん。いつも以上に色気を増した黒瀬くんの色香に、あてられてしまいそうだ。
「……百合子さん」
「な、何ですか?」
「何でそんなに離れてるの」
「そ、そう? 普通だと思うけど……」
「……」
「いやいや、何で無言で近づいてくるの?」
「だってせっかく一緒に入ってるのに、そんなに離れてたら寂しいじゃん」
黒瀬くんにあっという間に距離を詰められて、気づけば開いていた距離がゼロになる。