逃げられるものならお好きにどうぞ。
「百合子さん……顔が真っ赤だね。お風呂が熱いの?」
「……分かってて聞かないで」
「ふっ、あはは、ごめんごめん」
顔を覗き込んできた黒瀬くんの口許は、ゆるゆると締まりがない。この状況を楽しんでいることが伝わってくる。
余裕そうなその態度が何だか悔しくて、軽く顔にお湯をかけてやれば、黒瀬くんはそんな私のささやかな抵抗にさえも、ひどく嬉しそうに、楽しそうに笑っている。
「黒瀬くん、楽しそうだね」
「そりゃそうだよ。だってやっと百合子さんと二人きりになれたんだからね」
鼻歌まで歌い出した黒瀬くんを見ていたら、私の肩の力も抜けていく。
お湯の色は白く濁っているから、その分恥ずかしさもあまり感じない。この距離で入っていても大丈夫そうだ。