逃げられるものならお好きにどうぞ。
「椿くん。……うー、やっぱりまだ慣れないよ」
「早く慣れるように、ちゅーしておく?」
「……何でそうなるのかな? 遠慮しておきます」
「遠慮しなくていいよ。百合子さんになら特別に、もっとすごいサービスもしちゃうけど?」
「そういうのは間に合ってるので」
片手を顔の前にかざして首を横に振った。
「ちぇっ、残念」と、わざとらしい拗ね顔を作った椿くんに自然に左手を繋がれ、そのまま並んで歩き出す。
「あ、そういえばね。今度出張で神奈川の方まで行くことになったの」
「出張ってことは、泊まりだよね?」
「うん、そうなるね」
「それ、俺も付いていってもいいよね」
「うん、ダメに決まってるよね?」
そんな不思議そうな顔をされても、ダメなものはダメだよ。
というか、出張に恋人を連れてくる人なんて、聞いたこともない。常識的に考えてアウトだからね。