逃げられるものならお好きにどうぞ。

あつあつシチューと苺のケーキ



十一月三日。黒瀬くんと街でばったり遭遇し、何故か二人で映画を観た日から数日が過ぎ去り、今日は黒瀬くんのお誕生日だ。


職場を定時で退社して、その足でバーに向かう。



――でも、お祝いしてほしいっていうのも実はただの冗談で、「え、本当にきたの?」なんて言われたらどうしよう。冗談も通じないやつだと思われたりして。



そんなネガティブ思考に陥りそうになるけど、もう店の前まできてしまったんだし、その時はその時だ。

……そもそも黒瀬くんにどう思われたって、構わないわけだし。



勢いのままに扉を開けて、店内に足を踏み入れる。

カラン、と軽やかなベルの音が響いた。



バーカウンターには見慣れたマスターの姿があるけど、店内に黒瀬くんの姿は見られない。

まだ仕事中で、奥で何か作業しているのかもしれないと考えながら、ひとまず席に腰を下ろそうとすれば、マスターに声を掛けられた。



「やあ、こんばんは。香月さんのこと、待ってたんだよ」

「こんばんは。待ってたっていうのは……もしかして黒瀬くんのことですか?」



聞けば、マスターは頷きながらも、困ったような顔でカウンターの右隣にある従業員入口に目を向ける。

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