逃げられるものならお好きにどうぞ。
「椿のやつ、実は熱があってさ」
「……え!? そうなんですか?」
「そうなんだよ。だけど、今日は香月さんに会う約束をしてるからって仕事にきてさ。だけどあんまりフラフラしてるもんだから、奥の方で休ませてるんだよ」
誕生日当日に熱を出てしまうだなんて、可哀そうに思えてしまう。
しかも、具合が悪いのにわざわざバイトにきただなんて……しかもその理由が、私と約束をしていたから? そんなの、マスターに伝えておくか、メッセージの一件でも入れておいてくれれば……それで済んだはずなのに。
「香月さん、悪いんだけど……椿のこと、家まで送ってやってくれないかな?」
「わ、私がですか?」
「僕もさすがに店は抜けられないし……椿がいなくなった穴もあるから、尚更ね」
眉を下げて笑うマスターから、困っていることが伝わってくる。
そもそも、私と約束をしていたから黒瀬くんはここまできたわけだし……私が送り届ける責任は充分にあるだろう。