逃げられるものならお好きにどうぞ。


――どうしよう。

これ以上、憂美さんの口から椿くんの話を聞きたくない。



「……あの、私はこれで失礼しますね」



胸がズキリと痛みを訴えている。何だか顔を上げられなくて、視線は地面に向けたまま、頭を下げてこの場を去ろうとした。


だけど、憂美さんに引き止められてしまう。



「ちょっと待ってよ。せっかく訪ねてきたんだから、もう少し聞いてくれてもいいじゃない? 私と椿のこと」

「……すみませんが、遠慮させていただきます」

「あら、どうして?」

「私は、椿くんのことが好きなので。……過去の女性(・・・・・)との思い出話を聞いて、楽しい気分にはなれません」



今の椿くんは記憶がない。

だけど、それでも――今の椿くんの彼女は、私だから。



顔を上げて、憂美さんの目を真っ直ぐに見つめる。


元カノ……だったのかは分からないけど、それは過去の話であることをあえて強調して口にすれば、憂美さんはピクリと片眉を持ち上げた。

怒らせてしまったかと思ったけど、憂美さんはニコリと笑みを浮かべる。



「……ふふ、確かにそうよねぇ。でも椿にとっては、本当に過去のことなのかしら」

「……失礼します」



今度こそ、背を向けてこの場を立ち去るつもりだった。

だけど耳に届いた言葉に、私は自ら足を止めてしまった。




「ねぇ、百合子さん。――椿を元に戻す方法、知りたくない?」



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