逃げられるものならお好きにどうぞ。
「分かった。嬢ちゃんのことはちゃんと送り届ける。邪魔もしねぇと約束する。ただ、これを持って行ってくれ」
「これは……腕時計、ですか?」
「あぁ。まぁ、お守りみたいなもんだと思って付けといてくれ」
黒の革バンドに、丸い時計盤。見た目は普通の腕時計にしか見えない。
言われた通り手首に巻き付ければ、皇さんは満足そうにうなずいてくれた。
そこから歩いて五分ほどすれば、目的地が見えてくる。
「もうすぐそこなので、此処までで大丈夫です」
「あぁ、分かった。……気をつけて行ってこいよ」
「はい。ありがとうございます」
近くまで送り届けてくれた皇さんにお礼を言って、一人で指定された店まで向かう。
店の前にはすでに憂美さんが待っていた。
私に気づいてニコリと手を振っている。
「待ってたわよ。それじゃあ早速行きましょうか」
「行く前に、一つだけ聞かせてください。……本当に、椿くんの記憶を取り戻す方法があるんですよね?」
「えぇ、もちろんよ。あぁ、でも……言っておくけど、それで椿の記憶が絶対に戻るっていう確証はないわよ? 相手は裏社会の人間だし……もしかしたら、貴女が危険な目にあうかもしれない。それは承知の上なのよね?」
「……はい。椿くんの記憶を取りもどせる手がかりがあるのなら」
憂美さんは、挑発するような目を向けてくる。
その瞳を真っ直ぐに見つめ返してうなずけば、憂美さんは片眉を上げて不満そうな顔になる。
私の反応が面白くないのだろう。