逃げられるものならお好きにどうぞ。

まだ、気づかないふり



時刻は夜の十九時。

仕事を終えて、いつもなら真っ直ぐ家に帰って、今頃は夕食を食べながらテレビでも観てぼうっとしている時間だけど……何故か私は“Bar curación”に足を運んでいた。



理由はただ一つ。

黒瀬くんに自分の働いている姿を見にきてほしいと言われ、私がそれに頷いてしまったからだ。



ついこの間、黒瀬くんを看病していた際、会話の流れでそんな話になったことは覚えている。

私は「都合が合えば」と伝えたつもりだったのだけど――仕事を終えてスマホを見れば、新着メッセージが一件入っていたのだ。



“今日は二十時までのシフトだから、間に合いそうだったらきてほしいな”



――時間的にはまだ十分に間に合う。だけど、正直面倒な気も……いやでも、前に約束してしまったわけだし……。



そんな葛藤を繰り広げながらも、足は勝手に自宅ルートを逸れてバーの方へと向かっていて――気づけば店の前に辿り着いていたというわけだ。

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