逃げられるものならお好きにどうぞ。


グラスを手にしたままぼうっとしていれば、左隣から声が掛けられた。

甘く澄み渡るような声だ。



「ねえ。隣、座ってもいいかしら?」



声を掛けてきたのは、ついさっき黒瀬くんと仲睦まじげな様子で会話していた女性だった。


栗色のロングヘアは綺麗に巻かれていて、大きな目元は睫毛がくりんと上を向いていて華やかな印象だ。

短いスカートから、ほっそりした足が惜しげもなくさらけ出されている。



この女性は私と二つ分空けた席に座っていたはずだったけど、開いていた距離を一気に詰められた。

私が返答する前に隣に腰掛けている。



――そういえば、此処に初めて来店した時も、同じように強引に隣に座ってきた男の子がいたなぁと思い出していれば、何故だか興味津々といった雰囲気を漂わせている女性が話しかけてくる。

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