逃げられるものならお好きにどうぞ。
「はい、どうぞ。お姉さんのために作った特別カクテル」
「……ありがとう」
お礼を言って受け取れば、黒瀬くんはニコリと笑って私が口にするのを黙って見つめている。
真正面からじっと見られていることに少しだけ緊張しながら、グラスを傾けようとした――そのタイミングで、黒瀬くんがテーブル席に座るお客さんに呼ばれてしまった。
「……ちょっと行ってくる。後で感想、聞かせてね」
数秒の沈黙の後、にこりと笑った黒瀬くんは、奥の方にあるテーブル席に向かっていった。
お客さんたちはそこそこ酔っぱらっているみたいで、複数人の男女の賑やかな声がここまで聞こえてくる。
グラスの中身をコクリと喉に流せば、すっきりした甘さで飲みやすい。
カシスソーダみたいだ。
グラスのふちにちょこんと添えられているチェリーがかわいらしい。
私のために作ってくれたのだという言葉を思い出せば、何だか一気に飲むのが勿体なく思えてくる。