逃げられるものならお好きにどうぞ。
「私はね、椿の彼女よ」
「……そうなんですね」
――へぇ、そっか。黒瀬くん、彼女いたんだ。
やっぱりという気持ちと一緒に、どうしてだろう……胸の中に、モヤモヤとしたよく分からない感情が生まれる。
「まあ元、だけどね。びっくりした?」
美代さんが弾んだ声で言う。
その声音からは、私の反応を見て面白がっていることが伝わってくる。
「椿って顔はいいんだけど、あとはダメダメじゃない? 今住んでる家もぼろいし、独占欲だって強いし、ちょっと面倒よね。百合子ちゃんもそう思わない?」
「……別に私は、黒瀬くんの彼女でもありませんし。分からないです」
自分でもムッとした声を出してしまった自覚はあるけど、さっきから美代さんに遊ばれているようで、正直面白くない。
だけど美代さんは、そんな私を見て尚も楽しそうに笑っている。