逃げられるものならお好きにどうぞ。


「まぁ、隣を連れて歩くにはいいわよね。ほら、やっぱりブランド品とか、良いものを持ってるだけで気分が上がるでしょ?」

「……黒瀬くんは、物じゃありません」

「あら、そんなこと分かってるわよ。例えでしょ、たとえ。というか、何で百合子ちゃんがそんなに怒ってるの?」

「……別に、怒ってるわけじゃ……」



美代さんはカウンターに頬杖をついて、私を下から見上げるようにしながら、尚も言葉を続ける。



「ねえ、百合子ちゃんって、やっぱり椿に気があるの? まぁさっきも言った通り、椿って顔くらいしか取り柄がないけど……百合子ちゃんみたいに従順でか弱そうな子ならお似合いかもね。あ、そうだわ、私が知ってる椿のこと、教えてあげましょうか? ここで会えたのも何かの縁だし…」
「そうですね。美代さんみたいに、人の価値を自分にとって有益かだけで判断するような、性格の歪んだ人よりは……私の方が、まだ合ってると思います。それに……知りたいことは直接本人に聞くので、大丈夫です」



これ以上聞きたくないと、私は美代さんに被せるようにして、言葉を吐き出すようにして言いきった。

その綺麗な顔に笑みを湛えたまま、小首を傾げた美代さんは、大きな瞳を細めて私をじっと見つめてくる。

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