逃げられるものならお好きにどうぞ。


「……美代さん、何してるの?」

「何って……見て分かるでしょ?」



落ち着いた調子で話している美代さんと黒瀬くんだが、そこに先ほどまでの穏やかな雰囲気は見られない。

漂うピリピリとした空気は、どう考えても、私が余計なことを言って美代さんを怒らせてしまったせいだ。


私を庇うようにして立っていた黒瀬くんの背中から顔を出して、美代さんに声を掛ける。



「あのっ、……美代さんを怒らせてしまったことは、謝ります。でも……さっき言ったことは、取り消すつもりありませんから」



謝ろうと思って口を開いたはずだったのに、先ほどの、黒瀬くんを物みたいに言っていた言葉を思い出してしまって――気づけばまた、余計な一言を付け足してしまった。



美代さんは怒っているのかさえよく分からない、読めない笑みを浮かべて黙ったままだし、黒瀬くんは――何だか肩が、小さく上下している気がする。

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