逃げられるものならお好きにどうぞ。


「……っ、ふっ。やっぱ、かっこいいな」



黒瀬くんが、小さな声で何か呟いた。

よく聞き取れなくて顔を持ち上げれば、こちらを向いて身を屈めた黒瀬くんが、顔を近づけてくる。


そして――。



「っ、んんっ……!」



気づけば黒瀬くんの顔が眼前まで迫っていて、柔らかな唇が重なっていた。

以前の軽く触れただけのキスとは違う、呼吸もままならないほどの長くて深い口づけに、段々と頭の中が真っ白になっていく。


抵抗しようと両手で胸を押せば、黒瀬くんはすんなり離れていった。


呼吸を整えていれば、黒瀬くんに肩を引き寄せられ、胸に寄りかかるような体勢になってしまう。



「見ての通り、俺、このお姉さんにべた惚れだからさ。この人に手出したら……美代さんでも、何するか分かんないよ?」



黒瀬くんが、にこりと綺麗な笑みを浮かべて美代さんを見る。だけどその目は、傍から見ても全く笑っているようには見えない。


――ゾクリと、悪寒のようなものが走る。

< 68 / 81 >

この作品をシェア

pagetop