Fahrenheit -華氏- Ⅲ

彼が席に着くと、ギャルソンがすかさずワインリストを持ってきた。


こげ茶の上質な皮のメニュー表。


全部がフランス語と、その下にカタカナが振ってある。


目の前に座った彼はメニューを見ながら「う゛~ん」と唸っている。


あたしもフランス語は詳しく無いし、こう言う場で変に格好をつける必要もない。


「ソムリエを呼んでください」あたしが言うと、「かしこまりました」とギャルソンは言葉も控えめに、すぐにソムリエと交替した。


「産地はこだわりません。赤の極上のフルボディを」


とこちらも言葉少な目に言うと


「ではこちらのシャトウ ペトリュス・ポムロールの1998年ものがオススメです」


とソムリエは答え


「ではそれを二つ」あたしはすぐに答えた。


「慣れてるね」彼は物珍しい何かを見る目であたしをまじまじと眺める。値踏みされてる―――そんな気がした。


パタンと音を立てメニューを閉じ


「ところであなたは成人しているのですか?


見た感じ未成年にも見えますが」と言い、あたしは手をあげてソムリエを下がらせた。


「信じないの?疑い深い人だなぁ」


「未成年にアルコールを提供したと言うのなら、私が責任を負わなければならないので。もし未成年なのであれば、帰ってください」


そっけなく言うと


「未成年じゃないよ。ホント疑い深いね」彼はしぶしぶと言った感じでジャケットの中から免許証を取り出し、白いクロスが敷かれたテーブルに置いて突き出した。


あたしはそれを確認するフリで、テーブルに置いたスマホで写真を撮った。



「葵 勇馬―――アオイ ユウマ」



免許証に記載されている名前を読み上げると、彼はここに来てようやく狼狽と言うものを見せた。


「何してんだよ、プライバシーの侵害だ。訴えるよ」と目を吊り上げる。


「どうぞお好きに」あたしがお得意の無表情でそっけなく言うと、彼はまたもたじろいだ。


そのとき、ちょうど英国風の紳士があたしたちのテーブルの横を通りがかった。


「Excuse Me, Where are the bathrooms located?(失礼、お手洗いはどちらに?)」とギャルソンの一人に聞いてきて


「The bathrooms are outside.(外にございます)」と、こちらも流石に高級ホテルなだけある、ギャルソンは滑らかに受け答え、


英国かと思っていたらアメリカ英語だったことに気付き


「The bathroom is located at the end of the corridor on the left as you exit the store.(お店を出て、廊下の突き当り、左側にございますよ)」あたしが説明を加え、にっこり微笑むと


「Thank you, lovely lady.(ありがとう、ステキなお嬢さん)」紳士は恭しく頭を下げ、言われた通りお店を出ていった。


「Yes, Take care.(いいえ、お気を付けください)」


と受け答えしていると


目の前の彼は目をぱちぱち。


「すっごい、何て言ったの?今」


「聞きたいですか」あたしが無表情に戻り彼を見据えると、彼は顎を引きながら


「何?」と聞いてきた。





「二村さんとはどういったご関係で?



何故、私に近づくのですか」



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