Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「ありがたいけどさ~、こんな胡散臭い男の話を真に受ける?」
葵さんは苦笑いを浮かべ、しかしながらヴィアンドをきれいに平らげていた。
流石に若い……と言ってもあたしといっこしか変わらないけど、男の子だけある。
あたしのお肉はまだ残ったままで、しかし焦ることなく自分のペースでそれを口に入れる。
「いいよ。二重スパイの件を引き受ける。何か面白そうだし。何より金になるしね」
葵さんは素直過ぎるぐらい素直に笑って親指と人差し指で丸を作る。
「でも、それだけ払ってもらっちゃ悪いからオプション付けるけど?」
彼は軽くウィンクをして
「オプション?」
とあたしが目を上げると
「流石にこのホテルで~ってワケにはいかないケド、ラブホとかで良ければ付き合うよ?」
はぁ?
「何言ってるんですか、私はそう言うのを求めていませんし、お金を払うのなら相手を選びます」
ハッキリと言うと、葵さんはまたも笑い声をあげ
「ハッキリ言うね~!でもそうゆう所も気に入った。
ね、瑠華ちゃんて呼んでいい?」
突如馴れ馴れしく言われ
「はぁ」あたしは曖昧に頷いた。
別にどう呼ばれても構わないし、そこまで気が回らなかった。
「だってさー、柏木さんだと何か他人みたいじゃん?」
「他人ですが」
「ここまでやるって言うんだからさ、やっぱ楽しくやりたいでしょ」
「はぁ」
「じゃ、決まり♪瑠華ちゃん、俺頑張るね」
葵さんは親指を立て、またもウィンク。
「期待してます」
本当に―――…
お金を掛けているのだから、その分キチンと働いてもらいます。
食事は終盤を迎えていた。
桃とシャーベットが添えられたムースケーキ
「こちらが本日のデセール(デザート)です」
ギャルソンが運んでくれて、
「ありがとうございます」
あたしは彼、―――葵さんを見てにっこり微笑んでみせた。
本当に、期待してますよ。
ジョーカー