Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「でも、何で柏木さんはそんなことを…?」
綾子も首を傾げ、三本目のタバコに火を点けた。
「そこんとこの意図は俺も分からない」ハッキリと言う。「わかりゃ苦労しねぇし……まぁ分かったところで、二村が爆弾握ってるわけだしな…俺はどうにも身動きできない」
裕二はガクリと言った具合で大げさに肩を落とす。
「何だよそれ。
でも、柏木さんは二村をハメるつもりだったんだろうな。でもさぁ、どうして二村が食いついてくるって分かったわけ?」と目を細める。
「そのことだが」
俺はちらりと綾子の方を見て、名指しされた綾子は自分の方を指さし、ビールに口をつけたまま「知らない、知らない!」と首を横に振ってジェスチャー。
「綾子……俺たちの企画書…つまり稟議が上がったとき、まず一番最初にどこに行く?」
と綾子に聞くと
「えーっと……最初は専務秘書の衛藤さんでしょ?常務秘書の高野くん、それから執行役秘書の井坂くん、(あまり知られてませんが秘書課は綾子を入れて五人です)それから―――…」
綾子は言いかけて、ハッとなったのか飲んでいた缶ビールを置いて口に手をやった。
「瑞野さん―――…」
俺は大きく頷いた。
「綾子が書類を見るのは秘書課でも、一番チェックが厳しい長のお前の審査を通して会長の元にいく。常務や専務、執行役員には決裁する権利がない。けれど稟議書のチェックは綾子意外の四人に分担されることは間違いない。
綾子が目にするのは最終段階だ、綾子のチェックを通った書類はほぼ決裁が下ったと言っても過言じゃない」
「ちょ、ちょっと待って…!瑞野さんが稟議を持ちだしたって言うの!?」
綾子が身を乗り出し
「その方法しかない。俺は確かに自分で秘書課に提出した」
「あの時は確か…」綾子が顎に指を置いて「会長は瑞野さんの失敗に御立腹で、私が稟議を受け取ったけれど、翌日……」言いかけて、目を開いた。
「……確かに、瑞野さんに手渡した―――」
やはりそうか―――