Fahrenheit -華氏- Ⅲ
あたしは―――
怒っているときはスコッチ、楽しいときは赤ワイン…悲しいとき、寂しいときは
どうやらブランデーを飲む癖があるらしい。
でも
今日、葵さんと飲んだ赤ワインは
おいしくなかった。
変なの。
値段もそれなりに張ったと言うのに、啓と飲んだ時の安物のワインの方がうんと美味しかった。
『ワインかぁ。柏木さんには似合いそうだわね。私なんて日本酒が一番似合うって言われたのよ、裕二に!』と綾子さんは語気を強めて
『一回だけだろ!』と遠くで麻野さんが喚く声が聞こえてきた。
くすっ
あたしはまたも小さく笑った。
羨ましいカップル。
「綾子さん―――今日は話に付き合ってくださってありがとうございました」
『いいのよ~、オフだったらいつでも話相手になるわ』と綾子さんが弾むように明るく言って
「ありがとうございます、お気を付けて。おやすみなさい」
そう言い置いて、あたしは電話を切った。
幸せ、楽しい、嬉しい―――……悲しい、寂しい、辛い―――
色んな感情の色んな言葉が頭の中をいったりきたり、
あたしはブランデーのロックグラスを手で包んだまま、きゅっと体を抱きしめた。
寂しい
悲しい
この感情に慣れるのは、一体いつなのだろう。