Fahrenheit -華氏- Ⅲ
次の日は土曜日だった。
この日、俺はまたも夢を見た。
瑠華が足を一歩踏み出す。前に見た時、ちゃんとコンクリートの床に裸足の足がついていたのに、彼女が踏み出した先には床が無かった。
「瑠華っーーーーーーー!!!!」
声が張り裂けそうになるぐらい叫んだが、
その声は彼女に届かない。
けれど瑠華が一歩を踏み出す、まさにその瞬間、彼女の手を力強く引いて抱き寄せる
男――――
マックス―――…
俺は目を開いた。
夢はそこで途切れた。
はっとなって身を起こし、しかし以前の夢と違って激しい頭痛と手の痺れはなかった。
けれど、胸の奥がギシギシいってる。その音が聞こえそうな程
辛い。
俺はその場で体育座りをしてぎゅっと腕に顔を埋めた。
瑠華と別れてはじめての週末。
最近では俺たち二人が一緒に居るのが当たり前のようになってたから、突然ぽっかりと空いた時間の使い方が分からなかった。
やることもないし、久しぶりに寝るかと思いベッドでごろごろしていても、そう続かない。
そもそも寝てしまったらまたあの夢を見るかもしれない、と思うとそれも怖かった。
一人の時間は慣れているし、前の俺だったら一人で過ごす時間は全然苦じゃなかった。
けれど今はただ―――寂しい。
することがなくて、むやみやたらと部屋の中を歩き回り
もう秋だしな。これから一か月もすりゃ本格的な冬がやってくる。
コートなんかの類をクローゼットのバーの手前に持ってこようとしたとき、ふと隅に置いた瑠華のエルメスの赤いスーツケースがひっそりと存在していた。
返すべきか。
いいや、返したくない。
瑠華の痕跡を―――消したくない。
『今度、お互いのシャンプーとか歯ブラシとか、買いに行こうな』
約束した。
けれど、その約束は守られることなく、今バスルームや洗面所には俺のシャンプーやボディーソープ、歯ブラシが一つと言う状況だ。
あの時『結婚しよう』と言いかけた。
もし言っていて、瑠華もそれに頷いてくれたら、こんな結果にならなかったのだろうか。
いや、今考えても仕方ない。
それに瑠華はあのとき
『大切にしたいのです。この気持ちを。
ゆっくりと温めていく感じが』
と言ってくれた。
それが嬉しかった。
ひっぱり出したスーツケースを元あった場所に戻して、俺はその場に座り込んだ。
「ごめんな、約束を守れなくて」
でもいつか―――全ての問題が解決できたら、今度こそ、互いの家に互いのシャンプーやらボディーソープを買いに行こう。真っ先に。
どれぐらそうやって座り込んでいたのだろう。
俺ってダメだな。スーツケースは仕舞ったものの、瑠華の存在をあちこちに思い出している。
そんなときだった。
TRRRR…
リビングのローテーブルに置いたプライベート用の携帯が着信が報せ、のろのろとその電話に向かった。
どうせ裕二辺りだろう。忘れ物でもしたか?と思って携帯を見ると、ディスプレイに
着信:真咲
と書いてあって俺は目を開いた。