Fahrenheit -華氏- Ⅲ
真咲とは―――五日ほど前に、病院で会ったきりだ。
ちゃんと謝ったし、向こうもそれ以上何かを言ってこなかった。
言い方が悪いが今度こそ「あとくされがない」お別れをした筈だが―――
しかし気になって、電話を取ると
『あ、あたし……急だけど、このあと会えない?』との提案に俺は目をまばたいた。
「何?」
思わず言葉がそっけなくなってしまった。慌てて
「いや……菅井さんに悪いだろ。俺ら昔の元カレ元カノって関係だし」と言い直すと
『菅井も居るの。あんたを困らせるようなことは言わないから来て欲しい』
菅井さんも―――…?
益々困惑して、けれど結局話したい事が何なのか気になって、俺は真咲が指定した俺の家から車で10分程度の所にあるファミレスに向かった。
禁煙席フロアの手前、四人掛けボックス席で真咲と菅井さんが並んで座っていて、菅井さんの方が先に俺に気づきにこやかに手を振っていた。
とりあえず、二人に何か罵られるようなことはなさそうだ(まぁ菅井さんが俺を責めたことは一度もないが…)
「すみません、突然お呼び立てして」菅井さんは頭を下げた。
「いえっ、暇してたんで…気にしないでください」俺も頭を下げる。
俺は二人の向かい側に腰を下ろし、ホットコーヒーを頼んだ。
真咲の手元には食べかけのチョコレートパフェとオレンジジュースがある。
思わず目をまばたき、
「お前、そんなん食うキャラだっけ?そんな女子的な」と何も考えず言葉が口に出て、俺は慌てて口元を押さえたが、菅井さんは気にしてない様子だった。
「うっさいわねー、妊婦は好みが変わるのよ」
そう言うもんか…
くすっ
ふいに菅井さんが向かい側の席で小さく笑い、俺と真咲は二人して菅井さんを見た。
「あ、すみません。何だか新鮮だったので。お二人はこうやってやり取りしてたんだな~って」
「何か……真咲とは男友達の延長線上みたいなもので」
俺は苦笑い。
「正臣にはもっと女らしくしてる……つもり」
真咲から初めて菅井さんのこと「菅井」じゃなくちゃんと「正臣」と聞いて、何だか初めて現実味を感じた。
「いや、俺にもこんな感じだよ?」と菅井さんは苦笑。菅井さんも普段は自分のこと『僕』と言っているのに『俺』って言うし、何か初めて二人がちゃんと好き合ってるんだな、て思うと心の奥がちょっとあったか――――…
「恋人と別れたばかりの初めての週末ってくるでしょ」
真咲が温度の感じられない目で俺を見上げ、淡々と聞いてきた。