Fahrenheit -華氏- Ⅲ

あたしは結局モンブランと出来合いのパスタだけ買ってマンションに帰りついた。


部屋に帰ると、まだ焦げ臭さが残っていてあたしは慌てて窓を開けた。


ふわりと秋の風が部屋になだれ込んできて、レースのカーテンが揺れた。


それはまるで以前、軽井沢の教会で啓が貸してくれたウェイディングベールのように―――見えた。


思わずそのカーテンにくるまり、身を包む。


二度目の結婚は―――ロングベールに―――したかった。


叶わない夢だと思っても、あたしは夢を


見てしまう。


目を伏せ、そのカーテンに顔を埋めていると、


ソファに放り投げたスマホが着信を報せた。


慌ててカーテンから抜け出ると


着信:心音


になっていた。


この所、向こうが早朝時間に電話をする形になっているけれど、心音は昼夜逆転してるから気にしていない様子で、あたの日本時間に合わせてくれてるのだろう。


『ハッロ~!』電話口で明るい声が聞こえてきて、ちょっとほっとした。


ちょうど良かった。心音に報告したかったことがあったから。


あたしは挨拶もそこそこに、11月11日に役員たちが集まることを話すと


『なるほど、でも今週の金曜日じゃない?あんたの偽のオークションが間に合わないじゃない』と心音は声を低めた。


「偽オークションは決行する。その前に重役たちの派閥の比率を知りたいの」


『それは分かったけれど、19日の偽のオークションも迫ってるのよ?決裁が降りてない今、どうするつもり?まさか偽造……?』


心音は一層声を低めた。『そこまでしたら流石にこちらの分が悪くなる』と言いたいのだろう。


「まさか」あたしはあっさりと言った。


「手は打ってあるわ。偽造ではないし、最も合法な方法で」


『最も合法な方法って?』


心音が聞いてきたけれど


『ごめん、キャッチが入っちゃった!ああ、もう誰よこんな朝早くに!』と心音が喚く。


あたしに掛けてくれた電話も朝早くだけど…


『仕事とプライベートは別よ』心音が電話の向こうで「ふん」と鼻息を鳴らした。


ふふっ


あたしは小さく笑い


「また電話する。仕事、頑張ってね。Bye.」


『I'll be waiting for your call.(連絡、待ってるわ)Bye!』と電話は慌ただしく切れた。


スマホをそっとローテーブルに置いて





もっとも合法なやり方で―――ね。




にっこり微笑み、冷めて大して美味しそうでもないパスタを手にした。


「とりあえず、エネルギーチャージね」


来たるその日に向けて。


闘いの準備をしなければ。




待ってなさい、


二村さん。



このまま好きにさせないわよ。


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