Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「頼むって、会話を聞きだしてくれるのか?それが証拠になるんか?」と裕二が疑わし気に目を細め、唐揚げを頬張る。
俺は白菜キムチに箸を伸ばし
「紫利さんはその道のプロだ。うまく話を引きだしてくれる。それに証拠云々とか言う問題じゃない。そもそも犯罪じゃないしな。
俺が知りたいのは、今、神流派がどれぐらいいて、緑川派がどれぐらいいるのか、だ」
「その後の大きな会食予定はないですからね。ここで大きく固められるでしょうね」と村木はビールを飲み、そして焼き鳥の串に手を伸ばしている。
焼き鳥の甘辛い香ばしい香りが鼻孔をくすぐり、俺の手もついその方へ向いた。
村木は焼き鳥の一本をしげしげと眺め
「緑川派が神流派を飲み込もうとしているのなら
こちらが緑川派を食いちぎる」
村木はワイルドに鶏肉を口で文字通り食いちぎり
「な……何か頼もしい??」と隣で裕二が俺にこそっ。
まぁ、ここに来て?意外に使えるヤツを味方にできたことはラッキーだな。
しかし村木と手を組む日が来るたぁ。
世も末だな。
「すみません、芋焼酎ロック」俺はベルスターで呼び寄せた店員に注文。
にわか薩長同盟だ。薩摩と言えば芋だろ?景気づけだ、このやろう。とヤケクソ気味。
話し合っているうちに、テーブルに置いた村木の携帯が着信を報せた。
ちらりと見えた。ディスプレイに『梨々花』と光る文字を。
村木は席を外すことなくその場で電話を取ると
「何だ?今は忙しい―――ああ、その件なら覚えてるし、今更断るつもりもない。―――え?俺が適当なことを?ちゃんと覚えてる、来週金曜日だろう?今度はちゃんと話しあうつもりだから」
とか何とか答えていて、話しが長引きそうだったからか
「失礼、少し電話をしてきても?」と受話口を押さえながら村木は立ち上がった。
「どーぞ、どーぞ」と言う意味で俺と裕二はその姿を見送った。
「てか誰?村木の“これ”?もしかして別れ話がもつれてるとか?」と裕二は小指を立ててニヤニヤ。
「愛人とかじゃねーよ。てかアイツに限って愛人とか作れるタマか?
まぁ女には違いないが、あいつの娘だよ。なんか娘の婚約者が気に入らないんだとよ」
俺は焼き鳥の最後の肉を引きちぎりぞんざいに言った。
「ああ、こないだ言ってた?お前を見合い相手にってヤツ?」と裕二はからかうように俺の肘を小突いてきて
「それは解決した」
と言うのも―――全部瑠華のおかげだけどな。
瑠華―――
君は本当に凄いよ。
あの村木の気持ちさえ動かしたんだから。
今更ながら、彼女の言動、行動
助けられた数々を思い出し
またも喉の奥に何かが詰まったような苦しさを感じた。