Fahrenheit -華氏- Ⅲ
啓は、昨日別れを切り出した時と同じ温度の冷たさで、しかし明らかに怒気を含んだ触れると火傷をしそうな感情を露わにして、二村さんの手を掴んでいる。
結構な力だったと思う。啓が二村さんの手を掴んだ手にくっきりと血管が浮き出ていた。
「や、やだな~、みんなして。俺、悪者??」
と二村さんは苦笑いを浮かべている。
啓は薄汚い物にでも触れたかのように乱暴に二村さんの手を払い
「うちの柏木にちょっかい掛けるのも大概にしろ」
と低く言って、まるで蛇が威嚇するように二村さんを睨み下ろしている。
「だ、大丈夫ですか…」と佐々木さんがあたしに近寄ってきた。
「え…、ええ…」あたしは佐々木さんに何とか答えた。
「あー…部長、アレ完全に怒ってますね」とぼそりと佐々木さんが一言。
「怒って…る?」
「付き合い長いんで…本気かどうか分かります」と佐々木さんは苦笑い。
「あ!でもとばっちりとかないんで大丈夫ですよ、あのひとそう言うとこないんで」と慌ててフォロー。
「でも、昨日と言い、二村くんと何かあったんですか……あの人を怒らせるなんて、村木次長以外初めてです…」
そのときだった。
「すみません、柏木補佐、神流部長。うちの二村が面倒を起こしてしまいまして」
と村木さんがゆっくりと隣のパーテーションから現れた。
「わー…また厄介なのが出てきましたね…」と佐々木さんはひくひくと顔を引きつらせながらまたもボソッ。
けれど村木さんは
「柏木補佐、すみません。二村にはきつく言い聞かせます。二村、君もだ。今大事な時期だと言うのに、気が緩んでるんじゃないか。隣の部署で油を売る余裕があるとは」
村木さんは横柄に腕を組み、二村さんをひたと見据える。
流石に自分の部署の上司が出てきたとなると、二村さんもそれ以上のことができず
「ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」と言い頭を下げた。
それに続き
「ご迷惑をお掛け致しました」
と村木さんが頭を下げ、
佐々木さんがびっくりしたように目を丸め
「わぁ!あの村木次長が!?明日は雨……台風かもしれませんね」とまたもボソっと呟く。
あたしはちらりと窓の外を見やった。
あたしはすぐ隣に居た佐々木さんに視線を配り
「大丈夫です、明日は
晴れです」
そう、
前を向いていたら
必ず目の前は晴れる。