Fahrenheit -華氏- Ⅲ
今日はピスタチオ色がきれいで気に入ったニット。ゆったり目にデザインしてあって絆創膏の上に包帯を巻いた腕が分からないシルエットのものを選んだのに―――
「ご…ごめんね、柏木さん!強く掴んだつもりは無かったんだけど」
と、二村さんはたぶん本気で慌てた様子。力を緩めただろうが、その手は離れて行こうとしない。
「触らないでください」
あたしは小さく答えた。
「……え?」
本当に聞こえなかったのだろう、二村さんが目を開いて耳に手をやった。わざとらしさは感じられない。
その能天気な所にどうしようもなく苛立って感情を押さえられなかった。
ただでさえこの人の顔なんて見たくないのに。
「All of them!? (聞こえなかったの!?)
I said, "Don't touch me!(触らないでって言ったのよ!)」
あたしは半ば叫ぶように言った。
「え……えっ…?」二村さんが困惑したように戸惑いの表情を浮かべる。
隣の物流管理本部から、あたしの叫び声を聞いたのだろう、パーテーションから数人が顔を出していた。佐々木さんもびっくりして、肩をびくりと震わせていた。
「『触らないでください』って言ったのです。離してください」
慌てて小声で言うと
ガっ
“誰か”が二村さんの手を力強く引っ張り、あたしの腕から二村さんのその手を引きはがした。
「二村、その手を離せ」
その“誰か”は
啓だった。