Fahrenheit -華氏- Ⅲ
あたしは目を開いた。
やっぱり……二村さんが言ったことは本当のことだったんだ。
それも葵さんを使ってあたしにその場に向かわせるようにした。
相変わらずやることが姑息ね。
けれど、すぐに桐島さんも出てきて
桐島さん―――……?
瑞野さんは酔ってしまったのだろうか、啓と桐島さんが支えている。
啓と瑞野さん―――二人きりじゃなかった―――?
と考えているときに、ふと桐島さんがこちらを見た。
あたしは慌てて葵さんのパーカーの袖を引っ張り、待たせていたタクシーに乗り込んだ。
「え?え?」と葵さんだけが『?』マークを浮かべている。
「しっ!」
あたしたちの会話なんて聞こえてない筈なのに、そしてタクシーに乗り込んだあたしたちの姿なんて見えてない筈なのに―――
何故こんな、こそこそしなければならないのだろう。
「あれがミミちゃんの新しい彼氏?」と葵さんは窓からそっと顔を覗かせ、啓の方を見ている。あたしは肯定も否定もせず
「何か…いけすかねーヤツ」
「同感です」
あたしもキッパリ言って、タクシー運転手さんに
「出してください」と頼むとタクシーは走り出した。
反対車線で同じく緑色のタクシーが止まったけれど、誰が乗り込んだのか
見れなかった。
見るのが
怖かった。