Fahrenheit -華氏- Ⅲ
ガシャンっ!
ガラスの割れる派手な音を聞き、背中がみるみるうちに冷たくなっていった。
はっとなって飛び起きる。
―――たは良いが…頭を金づちで打たれたような衝撃が脳天を駆け抜け
「っつーー…」俺は額を押さえた。
痛い。
リアル過ぎる痛みに涙さえ浮かんできた。
まるで鉛でもつまったような重い頭を何とか動かし辺りを見渡すと、そこは
俺の部屋だった。
リビングの―――ソファではなく、床の上。
ガラスの割れる音……は、まさに割ってしまった後で、俺のすぐ近くでグラスが割れて中の液体がラグに浸透し、それが俺のシャツにまで伝わってきた、と言う具合だ。
「―――夢……?」
辺りを見渡すと、東京の夜景どころか開け放たれたカーテンから眩しいぐらいの朝日が降り注いでいた。
鉛のつまったような重さに、起きあがろうとした頭が床に逆戻り。
頭を金づちで打たれたように、ガンガン響く。
背中、冷めてーし…
やっち―――まった……
完全なる二日酔いだ。
と言うのも、昨日、バカみたいに酒を飲みまくったからだ。
昨日、瑠華に切り出した別れ話を忘れたくて―――でも瑠華と過ごした短いがとても幸福に満ち溢れた日々は忘れたくない。
幸せにする、って言った。
傍を離れない、と言った。
ずっと隣に居ると―――言った。
俺はその全てを裏切った。
それは瑠華が会社を裏切るより罪深いことだ。
夢の中で聞いた、瑠華の言葉
彼女はきっとこう言っていたのだろう。
『う・ら・ぎ・り・も・の』
ズキズキと痛む頭の中で、沈むような感情だけがハッキリと現れる。
這うようにリビングに向かうと、リビングのローテーブルに缶ビールの空き缶、焼酎や日本酒と言ったボトルが数本、乱雑に転がっていた。
改めて思う。
俺、相当飲んだな。
昨日の最後の方の記憶がぶっ飛んでいる。
こう言うのをやけ酒と言うのだろうか。
「いってぇ…」
ふらつく足取りで何とか立ち上がり冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出す。それを一気に半分程飲むと、幾らか意識がはっきりとしてきた。
時間を見ると朝の6時。
はぁ…
ため息をつきながらシャワーを浴びた。
シャワーを浴び終えて、日課になっている夕飯作りをしようかと冷蔵庫を覗き込むも
だめだ……全く食欲ないし、意欲もない。
仕方なく着て行くスーツを選びながら―――
会社、休みたい。
こんなことを思ったのは初めてだ。