Fahrenheit -華氏- Ⅲ


流石に二日酔いのこの状態で運転はマズイと言うことで、俺は自宅から久しぶりに電車を乗り継いで何とかオフィスにたどり着いた。


途中コンビニに寄って二日酔いに効くと言うドリンク剤、それから酒臭さを誤魔化すため、(しつこい程歯磨きをしたがそれでもまだ残ってる気がする)口臭ケアタブレットを買って。


時間は8時をちょっと過ぎたところで、しかし佐々木はおろか




瑠華の姿もなかった―――




いつもなら7時半には必ず出社していたのに。


もしかして……


ふいに昨夜の夢を思い出し、俺は思わず口元を覆った。


イヤな予感がしたが、まだ始業時間には時間がある。


過剰に心配しても……いや、心配する権利もないか、今の俺には―――


ドリンク剤を一気飲みして、持ってきた新聞をぼんやりと眺め……しかし黒い活字は一向に頭に入ってこない。


浮かんでくるのは、昨日最後に見た瑠華の姿だけ。


俯いて、しかし髪に隠れたその表情はまったく見えなかった。


それから15分を過ぎた辺り、佐々木が出勤してきて


「おはようございまーす、あれ?部長一人ですか?柏木さんはまだ?」と空っぽのデスクを不思議そうに見て佐々木は目をぱちぱち。


「たまにはそゆうこともあるんじゃね?」と俺は何でもないフリをした。随分そっけなくなってしまったが、佐々木は気にした様子もない。


佐々木は鞄をデスクに置くと


「それより部長、昨日大丈夫でしたか?」


「昨日……?」


ギクリ、としたのは、瑠華と別れ話をしたこと―――気付かれた?


と思ったが


「夜中、僕に電話してきたじゃないですか。覚えてないんですか?」


佐々木は怪訝そうに目を上げ


「え?電話?」慌てて携帯を開くと、確かに発信履歴に『01:45分:佐々木』との文字を見て


くらり


俺は眩暈を覚えた。



< 27 / 608 >

この作品をシェア

pagetop