Fahrenheit -華氏- Ⅲ
フロアに出て給湯室のちょっと手前から女性社員の賑やかな笑い声が聞こえた。
相変わらず給湯室は女性社員のお喋りの場と化している。
まぁ彼女たちの殆どがあたしと違って完全事務職だ。打ち合わせや営業で席を外すこともなく一日中机にかじりついてると疲れるだろう。
あたしはマグカップを手に…しかしこうゆう時ってどうも入りづらい。
揃いの制服を着た彼女たちは
「うっそ~!!!
神流部長と瑞野さんがキス!!?」
その言葉に、あたしの足はぴたりと止まった。
え――――……?
「あ、あたしが聞いたのは抱き合ってたって」
「あ、あたしが聞いたのはホテルから出てきたって」
彼女らは声を潜めるわけでもなく、まるでゴシップネタに飢えた主婦のように会話を弾ませている。
「でもさ……それはあくまで噂でしょ…」と唯一、一人だけが冷静に、しかし小さな声で反論。
「えーマナミ、そこは空気読もうよ~
見たって人がたくさんいるんだよ。怪しいと思ってたんだよね~
最近あの二人…神流部長と瑞野さん、やけに二人でいることが多いしさ~」
「あ、あたしこないだ二人でカフェに居るとこ見た~」
「火のない所に煙は立たないって言うしね!」
「でも…」とマナミと呼ばれた子だけが、その話題を食い止めようとしている。
「やっぱさ、付き合ってるんだって、あの二人。
柏木補佐と噂があったけど、あの二人じゃねー…柏木補佐相手だと神流部長も疲れちゃいそうだし。
やっぱあざと系の瑞野さん?何かそれも悔しいけど」
疲れる―――……?
コンっ…
思わずあたしの手からマグカップが床に落ちた。