Fahrenheit -華氏- Ⅲ
紫利さんは大仰にため息をついた。
「あんたは乙女心っての、本当に気付かないのね」
「乙女心……?てことは瑠華はまだ俺のこと好きでいてくれてるの?」
俺は思わず紫利さんの両肩を掴んでいた。
「そんなこと自分で考えなさいな」
紫利さんは頭痛でも堪えるように頭を押さえ
「悪いけど、私行くとこできたからお先にね」と言ってひらりと手を振り
「タクシー」と言い、近くを通った緑のタクシーを呼びよせた。
「行くとこ?」
「不甲斐ないあんたの代わりに瑠華ちゃんの様子を見てくるの」
と言い、路肩に寄せたタクシーに和服の裾を優雅にたくし上げながら紫利さんは乗り込み
「あなた、私が思う以上に
イイ男になったわね」
紫利さんは少し寂しそうに笑い
「ワルい男じゃなくて?」俺がタクシーの屋根に手を付き中を覗きこむと
「イイ男よ?
別れた恋人の事を心配する―――イイ男で、
別れた恋人を泣かすワルい男でもあるわ」
紫利さんは微苦笑をしながら、運転手に
「六本木へ、出してください」と言い、
パタン
タクシーの扉は閉まった。
紫利さん
あなたはやっぱり最高に
イイ女だ―――