Fahrenheit -華氏- Ⅲ
俺はほとんど空になった焼酎の瓶から、最後の一滴まで名残惜しそうにグラスに注いだ。
ちゃんと言い訳……と言うか誤解を解きたかった。
けれど“表面的”には瑠華と別れている以上、本当のことを言ったって何も意味がないし、響かないだろう。
―――信じて欲しい
なんて、何て身勝手な感情。一方的にフっておいて、そのくせ他の女との噂が立ち上ると、それは誤解だ、なんて。
瑠華を混乱させてる自覚はある。
『好きな人ができたのなら、私の稟議書を言い訳にしないで、ハッキリそう仰ればいいじゃないですか』
あの言葉が胸に突き刺さる。
違う…
違うんだ!
と心の中で叫んでいる俺を押さえるのに必死だ。
それにしても二村―――
どうして瑞野さんと俺が“ほしの屋”に居ることを知ってたんだ?
俺たちの後を尾けてたのか?
まぁそんなことどうでもいい。問題は何故瑠華にそんなことを言ったのか、だ。
意地悪にも程が過ぎる。
もしかして村木より陰険かもしれない。
別れても尚、俺たちの間を永遠に修復できないよう、ヤツは企んでいる。
それは派閥争い云々と言う問題だけではなく、ヤツの個人的感情が絡んでいるに違いない。
けれど
俺がお前に何をした。瑠華がお前に何をした。
恨みを買う程親しく無いし、俺も瑠華も過去に二村と接触した接点なんて何一つない。
そのところを考えた所で、いつだって答えなんて見つからない。
ただ
二村は瑞野さんが本命ってところだけ、分かっている。