Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「そう言えば瑠華ちゃんから今日の事電話くださいって言われてたんだわ、ちょっと遅くなっちゃったけど」と言いながらスマホを取り出す。
紫利さんは瑠華の約束を律儀に守ろうとしているのか、すぐにスマホを操っていたが、その仕草を俺は遮った。
「ちょっと待った。本当のこと全部言うつもり?」
「……全部って言うわけじゃないけれど、約束しちゃったし…重役たちの比率ぐらい教えてもいいんじゃないの?」
俺は紫利さんのスマホをぐっと握ると
「ごめん、この件に関しては―――
黙っていてほしい」
と、紫利さんを真剣に見下ろした。
「黙ってて、って―――…」
「これ以上、
瑠華を追いこみたくない。
傷つけたくない」
俺の言葉に紫利さんは目をまばたき
すぐにふと口元を緩める。
「啓人、イイ男になったものね。
”よしよし”してあげるから部屋に行く?」と目を伏せながら淡い笑み。
「これ以上にないぐらいイイ女からの提案だけど
やめとく」
俺は寂しく笑った。
紫利さんはちょっと背伸びをすると、ふわりと俺の頭を撫でてきた。
今日、瑠華以外の女に頭を撫でられるの二回目だ。