Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「では私から一つアドバイスを」
緑川さんがのろりと顔を上げる。
「彼の気持ちを確かめてみてはいかがですか?」
「確かめる?」緑川さんはマスカラで伸ばした睫を上下させきょとんとする。
「ええ、妊娠したと言ってみてはどうですか?その時の彼の対応に寄って決めればいいのです。
彼が堕ろせ、と言うのならあなたの気持ちは冷めるでしょうね」
まぁそれは無いと思うけど。二村さんにとって緑川さんは絶対的存在。
「でも…結婚するって言い出したら?」
「あなたは、二村さんの気持ちがまだ瑞野さんにある、と仰ってましたよね。それでもなおあなたが結婚したかったのなら、その気持ちに従えばいいと思いますよ?」
「でも……きっと二村くんあたしじゃなくあたしのパパの座があるんじゃないかって…」
「そこまで分かっているのならおのずと答えが出てきます」
あたしはにっこり微笑んだ。
「でも一緒に病院に行こうって言われたら……」と緑川さんが不安そうに制服のスカートをきゅっと握る。
「そのときはその時です。妊娠してないことが分かっても、素直に打ち明けてくれたあなたのことをさらに信用する筈です」
「信用させて、どうするんですか…」緑川さんは意図が分からないと言った感じで目をまばたきさせる。
あたしは、あなたを出世の道具に利用した二村さんを許すことはできません。
あなが許しても、あたしは―――許しません。
あたしは心の中で呟いた。
「それはそのときに分かる筈です。でも、あなたが本当に二村さんの気持ちを確かめたいのなら、方法はなくもありません」
「方法―――…?」緑川さんはさらにまばたきを忙しくさせて
「ええ、これで二村さんの本心を確実に知る方法。
少し時間は掛かると思いますが、一つ試してみませんか」
あたしが提案すると、緑川さんは一呼吸も置かず大きく頷いた。
なら決まり、ね。
あたしの“宝箱”
眠ったままにはさせない。
「それにしても、さっきの柏木補佐、かっこよかったです!」
「あなたの発言も痛快でしたよ」
あたしたちは顔を見合わせ、またも笑い合った。