Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「ホントはこんなこと望んでなかった」
「……うん」
「あたしは卑怯で、取り引きを成立させたいからちょっと脅したの」
「うん」
「怒らないの?」
「うん……」
俺は短く答え、「中絶の件、ホントにごめん。不甲斐ない俺で
ごめんな」
「いいよ、あんたから『ごめん』は沢山聞いた。それだけで
救われた」
俺は顔を上げた。
「あたし、今度は幸せになる。菅井と―――幸せになる。だからあんたも柏木さんと幸せに―――」
「なれるかなぁ」
俺は前髪をくしゃりと握った。
「なれるよ!」
真咲は大きな声ではっきりと答えた。
「何が理由で別れたのかあたしには分からないけれど、あたしは信じてる」
真咲は薔薇の花束を受け取った。
「今度こそ、幸せになれよ」
俺はまっすぐ真咲を見据え眉を眉を寄せた、
黄色い薔薇の花は「笑って別れましょう」
真咲は俯いた。その頬に涙が伝っていた。
「ごめ……なさい」
涙の合間に真咲は謝った。
「謝るのは俺の方。
今度こそ、幸せになれよ」
それだけ言い置いて、俺は真咲に背を向けた。
「啓人―――一つだけ聞いていい?
真咲の言葉に俺は振り返った。
「私の事、少しでも好きでいてくれた?」
「好きだったよ」
俺は笑顔で答えた。
真咲はとうとう堪えきれなかったのか嗚咽を漏らし、流れる涙を押さえることなく
「ありがと」
小さく言って、その言葉を最後に
俺は病室を後にした。
今度こそ、さよならだ。
俺は―――真咲と付き合ってたとき、幸せだった。楽しかった。
でも瑠華といて、その気持ちがそれを上回った。
何事にも代えがたい、
“愛”を手に入れた。
真咲のお陰だよ。
ありがとう、そして本当に
さよならだ、真咲―――