Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「何で……」真咲は弱々しく答える。
「何で謝るのよ!あたしが無茶な取り引きを持ちかけたのよ!
何で怒らないのよ!何で……」
真咲が俺の方へ歩み寄りながら、俺の胸にドンっと拳を押し付ける。
「恨んで、憎んで―――あたしのこと忘れないようにあんたを傷つけるつもりだった」
「恨んでもないし憎んでも無い。
俺はちゃんと真咲と向き合いたい、柏木さんと別れてから初めてそう思った」
俺は床に落ちた花束をそっと拾い上げた。
「ごめんな」
俺は心からもう一度謝った。
顔を上げると真咲の目に涙が浮かんでいた。
「これ、お見舞い」真咲の手にもう一度花束を持たせ。
「それからこれ、Mother’s gateの取り引き、ほぼ固まったからその報告」
俺は眉を寄せた。
「俺とお前の本当の別れた理由、柏木さんは知ってもお前に真剣に向き合おうとしてる」
「だったらどうして―――別れたりしたの」
「深く事情は話せない。けれど彼女との関係はもう終わったんだ。今日はその報告」
「ごめ……」
三度目の謝罪を真咲は遮った。
「もういいよ」真咲の言葉は消え入りそうな程小さなものだった。
「もういいよ。あたしは本気であんたたちの破局を願ってなかった。ただアザールの件を取り付けたかったから、あんたを利用した。あたしも
ごめん」
真咲の潤んだ目はとうとう堪えきれなかったのか涙の粒が零れ落ちた。