Fahrenheit -華氏- Ⅲ

うつた姫の微笑。


♠ K ♠


一日の疲れをとる為にベッドを含む寝具は重要だ。


俺がセミダブルのベッドを選んだのは、シングルだったら狭いから、ダブルだったら逆に広すぎて部屋が狭くなるから、と言う単なる理由。


でも一か月ほど前の俺なら思う。


このセミダブルのベッドで瑠華と目覚めるのが最高だと。


手を伸ばせばいつも彼女に触れられたから。






Pi…PiPiPiPi!


朝6時にセットしたアラームが鳴り、俺はうっすらと目を開けた。


元々アラームが鳴る前から目は覚めていた。ただ起きるのが酷く億劫だった。


アラームが鳴って最終警告のように思えて俺はのそのそと半身を起こした。


朝、目が覚めたら瑠華を腕に抱きキスをして、触れる部分にも口づけを落とし、「起きなきゃ」と言い合いつつも布団の中で戯れていた日々。


つい一か月前まで手を伸ばせば届く範囲に同じく寝ていた瑠華は




今は居ない。




そのぬくもりを感じられない日々が当たり前のように過ぎ去っていく。


今日も一日がはじまろうとしていた。



20XX年12月1日


暦は師走に入った。


年末は、年度末に続いて何かと忙しい。


多くの取引先会社やメーカーが年末の休みに入る前に滑り込み取引を持ち掛けてくるからだ。


「そいやぁ去年は物流管理本部だったなぁ」


コーヒーを飲みながらぼんやりと独り言ちる。


一年はあっと言うもので、去年のこの時期俺は村木の上の立場で、それこそ今の三倍以上の部下を抱えながらスケジュール調整にあくせくしていた。


けれど今年は人数も少なけりゃ、優秀な瑠華がいるからそれ程気を配ることもない。


歯を磨き、シャワーを浴び髭をあたり、ワイシャツを着てネクタイを結びスーツジャケットを羽織る。


いつものルーティーンで、今日も淡々と一日が過ぎていく。


二村との対決に何の進展もないまま。


それが一番応えるな。


日々は過ぎていくが、二村にSDカードを返してからこれと言って何の進展も収穫もなく、淡々と過ぎる日々に、それと反比例するかのように刻一刻と近づく株主総会のことを考えると気が滅入る。


俺は、二村に宣戦布告をしたって言うのに、二村の性格からは考えられないぐらい最近はひっそりとなりをひそめている。


何を考えている―――?


あいつの考えが読めないまま日々は過ぎ、このまま何もできないままで株主総会を迎えてしまったら―――と考えると


それはもはや恐怖でしかなかった。


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