Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「おかげで強引に見合い話を進まらせなくて良かったわ」
「お見合い……と言うのはこないだ同席していた私の上司の…」
「そうそ、父も何を思ってそうしたいのか…」
梨々花さんは肩を竦めてため息。
「それは―――地位もお金もあって――…」
言いかけた言葉を
「地位やお金なんて必要ないわ。
だって私が欲しいのは、父に紹介したあの彼だけだもの」
そう言い切った梨々花さんは何と清々しい。
見た目の美しさもさながら、このひとの中に溢れる『愛』が何よりも
美しい―――
彼女は輝いて見えた。眩しいほどだった。
どんなに反対されても、どんな未来が待ってようと、
梨々花さんは掛値なしに彼の事を愛しているのだろう。
何て眩しい。
そこだけ光輝いた梨々花さんの姿を見てあたしは目を細めた。
「きっと……きっとうまく行きます、だってあなたは―――」
こんなにもきれい。
その言葉が彼女に聞こえたのかどうか分からない。
梨々花さんのお父様、村木さんが誇りに思うのは理解できた。
「それに…」梨々花さんは一層声を潜めてあたしにぼそっと耳打ち。
「あなたの上司、ハッキリ言ってタイプじゃないの」
茶目っ気たっぷりに言われてあたしは目をぱちぱち。
ふっ
思わず吹き出しそうになった。
「かっこ良すぎる人、苦手なのよね~私」と唇を尖らせる。
「何故?」
「んー…何となく?面倒くさそう」
それ、あたしも最初思った。
面倒くさそう。
でも―――その『面倒』な部分も含めて『好き』なの。
どうしようもなく。
あたしにまだ誰かと動かせる力があるのなら、
あたしはまだカードを切るわけにはいかない。