Fahrenheit -華氏- Ⅲ
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数時間前、キャバクラでお手洗いを借りた際、出てくるとき入り口近くにあったお手洗いから出ると、ちょうど客と思われる男性二人組とぶつかりそうになった。三十代前半と思われる年齢で若干酒くさい。きっと二次会で利用しにきたのだろう。
『すみませ…』と謝ろうとすると
『あっれ~!新しいキャスト入ったの!?めっちゃ可愛いジャン、俺この子指名するワ♪』と男性たちが馴れ馴れしくあたしの肩に手を伸ばしてきて
『お客様、こちらの女性は…』とボーイが止めに入った所を
『この子は俺のツレでキャストじゃない、馴れ馴れしく触んないでくれる?』
葵さんがあたしの肩を抱き寄せ、男性客たちを睨む。
『え……そうなの…?』と男性客が怯んだように見えた。
『てかよく見たらおにーさんたち結構イケてんじゃん。お金持ちそうだし。ここの女の子たちかわい子ちゃん揃いだからきっと人気でるんだろうな~、あぁ羨ましいな~俺なんて金持ってないから相手すらしてくんないし~』と葵さんはにこにこ笑って男性客の周りをうろうろ。
『え?そうかな…』と男性客たちもまんざらではなさそうで、その後はボーイに大人しく案内されていた。
彼らが立ち去った後
『バーカ』と葵さんがベっと舌を出し、
『瑠華ちゃんに声掛けるなんて1000年早いっつうの』
『………』
黙って葵さんを見上げていると
『あ!ごめん!俺も馴れ馴れしかったね~』と葵さんはへらっと笑う。
『いえ、それよりも1000年後は私生きてないですが』
『物のたとえだよ』葵さんは苦笑い。
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あれは―――助けてくれたのよね?
あたしは葵さんがくれたイルカのスノードームの方へ視線を向けた。
結局”色々助けてくださりありがとうございます”の文字を一文字一文字消し、短いお礼だけに留めてメールを送信した。
『それってホントのことにならない?』
あの言葉の真意は、単なるあたしと仲良くしたい……以上のものがあったら?
がバッ
あたしは起き上がり、チェストにしまってある啓とおそろいのアトラスリングを取り出した。
「啓
今日は色んな事がありました。
色々疲れましたが、収穫もありました。
早く
早くあなたの隣に
いきたい」
きゅっとリングを手の中で握り、あたしは目を閉じた。