Fahrenheit -華氏- Ⅲ
前も思ったが結構ぐいぐい来るな。
「あ、あはは~、えーっと……」と頭を掻きながら必死に断りの言い訳を考えてると
「ちょっといいかしら」と隣の部署の内藤チーフがにこにこ顔を出した。
瑞野さんは慌てて俺とちょっと距離を取るように一歩下がった。
見るからに怪しげな話してました~って疑われるかもしれなかったが内藤チーフは気にした様子はなさそうで
「神流部長、24日空いてます?」
顔の前で手を合わせてどこか申し訳なさそうに切り出された。
「え…?ええ、まあ」
「ほんっとうに申し訳ないんですが、AKIYAMA企画さんに急な納品がありまして」
「はあ」
AKIYAMA企画と言えば俺が前内藤チーフの上に居るときの大事なお得意様だった。外資に移って内藤チーフに任せることになったが、未だ彼女がきちんと引き継いでくれてたんだな。
「こちらのミスでどうしても24日に来年用のカレンダーを納品しなくてはいけなくて。物販用トラックも全部出払っちゃって、土曜日だから社員にも頼み込んでも全員断られてしまって」内藤チーフはふぅとため息を吐いた。
「あ、じゃぁ僕運びますよ?AKIYAMA企画さんとは顔見知りですし。久しぶりのご挨拶も兼ねて」
営業用のスマイルを浮かべて快く引き受けたが、内心『よっしゃ!』とガッツポーズ。これで瑞野さんとの約束を断ることができる。
「ホントですか!それは助かります!今度絶対何かご馳走しますから」
「いいですって。前一緒に働いてたよしみで」俺はウィンク。
内藤チーフは微苦笑を浮かべながら何度も頭を下げて自部署に戻っていった。