Fahrenheit -華氏- Ⅲ

瑞野さんのサポートもあってか、最近は仕事がいつもより円滑に進んでいる。細々とした事務を思った以上のスピードで、しかも正確に仕上げてくれているからだろうか。


最近は夜遅くまでの残業が極端に減った。勿論アメリカ企業の殆どがクリスマス休暇に入っていると言う理由も含まれるが。


この日は葵さんと会う約束をしていて、あたしは終業前のちょっとした時間に最低限の化粧直しの為女子トイレに向かった。


皆考えることは同じなのね。洗面所は同じフロアの広報課と総務課の女の子たちが化粧直しに勤しんでいた。みんなこれから誰かとデートなのだろうか、それとも女子会なのだろうか。


あたしが入っていくと何事かひそひそ話して広報課と総務課の殆どの女の子たちがいそいそとトイレから出ていく。


何だって言うんだ。あたしは殺虫剤か。


まぁ気にしないけど。


と思っていると


「柏木補佐?お疲れ様です」


と唯一友好的(?)に声を掛けてきたのは確か、総務課で唯一あたしに良くしてくれてる


「マナミさん、お疲れ様です」あたしは頭を下げた。


マナミさんは少し照れ臭そうに顔を赤くして「名前、憶えててくださったんですね」と笑った。


「一度聞けば忘れませんよ」


ああ、可愛くなれないあたし。マナミさんはいつもあたしを庇ってくれているのに。


でもマナミさんは全然気にしてないのか


「柏木補佐もお化粧直しですか?珍しいですね」とあたしの手の中にあるシャネルのポーチを見ながらほんわかと笑う。


「ええ、まぁ」


「デートですか?」とマナミさんに聞かれ、あたしは無言でマナミさんを見ると「すみませっ……プライベートなことまで口出しして」と慌てて口をつぐむ。怒ったつもりはない。けれどあたしの無表情はよっぽど怖いのだろうか。


「デートじゃありませんけれど、ちょっとこの後出かける予定がありますので。マナミさんのリップ可愛いですね」


あたしはマナミさんのきれいなグリーン色をしたポーチから除いた淡いピンクの口紅を目にして指摘すると


「似合ってます?」とマナミさんは目を上げる。


「ええ、とても。可愛いらしいマナミさんにぴったりです」と言うと、マナミさんはほっとしたように胸に手を置いた。


「実は、三回目のデートなんです」


マナミさんはまるで内緒話をするようにあたしの耳元でこそっと告白。


三回目のデート?

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